書評へのこころみー藤沢三佳 

『輝ける闇の光の中で』山田孝明著 寄稿文:芹沢俊介

 

本書は、「社会的ひきこもり」論が盛んになる以前、最も早い時期からひきこもる若者に対する支援活動を始めた著者が20年以上にわたる貴重な活動を、若者の手紙や手記も交えて収めて記録したものである。著者は、京都市東山区を拠点として、遠く石垣島をも含む各地に若者の「居場所」や社会参加の場をつくり、訪問活動をおこない、また親の集いを全国に先がけて作り、家族会の発祥の源流となった。その自由自在な活動には吉本隆明氏も魅了されて幾度か講演をおこなった。やがて当時の若者世代は行政支援が及ばない50代になり、「フィフティーの会」もつくられていく。

なぜ長くひきこもる人が著者の訪問には奇跡的に心を開くのか、それはどこまでも当事者の苦しみに寄り添い、そっと手を差しのべる著者の存り方によるもので、若者がそれに感応する様子が、著者、若者、家族の個々の交わりのなかで示されている。この透徹した当事者に寄り添うまなざしは、単に「社会復帰」「就労支援」等の枠に収まらず、後の「生存協同組合」という名称が示すように、生の尊厳を最も大切にし、それ故に人は心を開くのである。社会適応や治療的モデルではなく、「友とともに居るなかでの自己快復モデル」とも言える。「就労支援」へのプレッシャーや挫折によって傷つく若者の存在等、ひきこもり支援の問題点も提示されている。芹沢俊介氏の論考が寄稿され、著者が精神的支柱とする、ひきこもることを否定せず受けとめる「存在論的ひきこもり論」に関する緻密な理論的考察がなされている。

数々の訪問について綴られているが、ある若者は10数年外へ出なかったが、何度か話すうちに、著者のいる「居場所」へ行く勇気が出るが、人が怖いので列車の待合室の2,3人の人影を見て乗れなくなる。そこで著者は運転手に人がいない無人駅を尋ねて、そこからやっと旅立つことができる。本書には、若者との魂の交流、希望の提示という深い実存的な内容が示され、彼らにむけて美しい文学的、詩的表現で語りかけられており、読む人の心を揺さぶる。

(イシス出版 isisshuppan@gmail.com)

 

藤澤三佳(京都造形芸術大学教授)

 

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