「親の死体と生きる若者たち」を読んでー 中桐康介

『親の「死体」と生きる若者たち』を読んで

 

山田孝明さんの『親の「死体」と生きる若者たち』を読みました。山田さんは長年、ひきこもりの人たちの支援活動に取り組んでおられます。今から7~8年前、ぼくが若者の就労支援として若者の居場所の運営の仕事をしていたころ、お世話になったことがあります。名古屋オレンジの会のシンポジウムにお招きいただいたこともありますし、NPO長居公園元気ネットで開催したシンポジウムにパネラーとして参加していただいたこともありました。それ以来、久しぶりの「再会」です。

『親の「死体」と生きる若者たち』については 同書では高齢の親と同居する40代、50代のひきこもりの問題、「8050問題」に焦点が当てられています。折りしも、川崎市のカリタス小事件や元農水省事務次官による事件があり、社会的にも強く関心を引いていました。ぼくは野宿者の問題にずっと取り組んでいますが、ぼくにとってもひきこもりの問題は「他所事ではない」と思っています。2000年ごろ、ぼくが長居公園での野宿者運動に取り組みはじめたころは、野宿者のなかに20代、30代の若い世代が目立っており、ぼくの関心は自然と若者の就労問題に広がっていきました。その後、縁があって就労支援の仕事をすることになり、いわゆる「ニート」状態の若者に支援に取り組みました。「ニート」状態の若者の中にはひきこもり経験者も少なくなかったですし、現にひきこもり状態にある若者の親からの相談も受けていました。ひきこもりと向き合って、どう寄り添って生きていったらいいのかを考えることは、当時のぼくにとって不可避のことでした。その後、オシテルヤの専従となって訪問介護の仕事を専門にするようになってからは、仕事としては高齢者や障害者に焦点をあてることになりましたので、若者やひきこもりとのかかわりは間接的なものになっていきました。表面上はそのようにぼくが直接にかかわる「対象」は変遷しているのですが、実はずっと「同じことに取り組んでいる」と思っています。ひきこもりに引き寄せて話してみると、野宿している人の中には他人と接することに強烈な不安感を持ち、社会に出て行くことを避けているように見える人もいます。アルミ缶集めなどの仕事をしている人もいれば、収入のない人もいます。精神的な疾患や発達障害が背景にある場合も少なくありません。地域や行政は彼らに「自立」してほしい、あるいは健康な生活を送ってほしいと願ったり期待したりして、主として野宿からの脱却を目的にした「支援」をしようとします。しばしば道路や公園などの管理目的で、お仕着せの「支援」となり、当事者の反発も招きます。ぼくらはただ、彼らを地域の隣人として受け入れ、寄り添いいっしょに生きていける世の中になったらいいと願い、夜回りなどの活動をしています。野宿の人とのかかわりとひきこもりの人とのかかわりが「とてもよく似ている」ことに気づかれると思います。

近年、野宿者は大きく数を減らしました。その大部分は生活保護の運用の改善によるものだと考えられます。一方で、生活保護利用者の孤立も問題として多く語られるようになりました。ぼくらが携わって生活保護を利用して、野宿状態から脱してアパート暮らしを始めた人の中に、様々な理由でひきこもり状態になっている人が少なくありません。その中にはヘルパーなどの福祉制度を利用している人もいますが、そうでもなければなかなか付き合いを続けていくことは簡単じゃありません。それでも不定期に訪問をしたり、年賀状を届けるなどして、か細い付き合いをなんとか続けていこうとしている、といったところが現状です。

若者の就労支援に取り組んで以来、カウンセリング技術を習得したりやキャリアの理論を学んだり(ぼくはキャリア・コンサルタントの国家資格を持っています)、発達障害について専門研修を受けたりしてきました。就労困難や生活困窮状態にある人の中には、精神疾患や発達障害を抱えた人(未診断、医療拒否の人も少なくありません)、非行や犯罪などの逸脱キャリアのある人、複雑な家族関係・経済関係の人などがいます。複数の課題を同時に抱えていることも珍しくありません。そうした人に適切な支援を提供し、なおかついっしょに仕事をする職員やメンバーに過剰な負担をかけないように持続的に支援に取り組んでいくためには、専門的な知識を身につけ、ノウハウを学ぶことは不可欠だと考えています。

しかし学べば学ぶほど、対象者とのかかわりが方法論に偏ってしまうようなところがあり、注意が必要だと常々思っています。アセスメントを徹底しようとすればするほど、カール・ロジャーズの来談者中心療法で言うような「無条件の肯定的態度」から離れていってしまうようなことを感じるのです。そんなとき、夜回りに出て野宿の人と接し、そのありのままを受け入れようとする自分を再確認して、出発点に引き戻ったような気がしてほっとするのです。

山田さんの本を読んで、ひきこもりの人たちのありのままに寄り添う山田さんの姿勢に触れて、そんなことを思いました。

**********

長居公園元気ネットでは山田孝明さんの講演会を準備しようとしています。またコチラでもお知らせします。

 

 

カテゴリー: お知らせ パーマリンク